予防と健康レポート

 

1. はじめに

今回のレポートを書くにあたり、あらかじめ2本のビデオ、「鬱病」と「アスベスト」が用意されていたが、そのうち「アスベスト」のビデオは欠席してしまったため見ていない。

よって私は「鬱病」のビデオの内容と、任意に選んだ二つのキーワードより抽出した以下に示す2つの論文の要約、考察を示す。

 

2.選んだキーワード

  「ストレス」

  「心理テスト」

 

3.論文要約

 

論文@

情動情報に対する認知的処理過程と責任感の関係

鈴木卓也 高橋栄 小島卓也 鵜木恵子

【要約】

責任感の高低により、強迫性障害患者(以降OCDと略す)とパニック障害患者の情動情報に対する自動的/制御的処理過程に違いがあるかを検討した。

OCDとは、強迫観念と強迫行為により構成される精神疾患である。OCDは難治性の疾患として知られているが、薬物療法と行動療法の有効性が認められている。

一方、パニック障害の中心的症状は、突発性のパニック発作である。これは、発作的で強烈な恐怖感または不快感で、特定の場面や状況で起こることもある。治療には薬物療法と認知行動療法が有効である。

被験者は健常対照群、OCD群、パニック障害患者群(パニック群)とし、3群の年齢に関して分散分析を行った結果、有意差は見られなかった。

方法には、責任感の高低条件の操作を行った状態でドット−プローブ課題を用いている。

責任感の高低条件は、実験の前に簡単な文章を読ませる事によって行った。

責任感高条件の文章は「これからやっていただく課題に対するあなたの結果は、精神医学の研究に重要な貢献をすることになります、また、あなたのデータとして採用しますので、できるだけ早く正確に答えてください」とした。

そして責任感低条件の文章は「これからやっていただく課題の結果は、統計処理にかけられるので、あなたのデータとして採用されることはありません。ですから、リラックスして行ってください」とした。

ドット−プローブ課題では、モニタ画面に刺激素材、ここでは被験者に対して脅威となる漢字(例;非難、死亡)を各脅威語と画数をマッチングした漢字からなる中立的な内容の熟語(例;発音、象徴)とペアにされ、順次呈示した。

また、中立語と中立語のペアをフィラーとして作成し、脅威語、中立語のペアと混ぜランダムに呈示した。

そしてそれらを閾下、閾上の2条件で呈示し、呈示後どちらかの単語の場所にプローブが表示され、対象者はプローブの位置をボタン押しにより出来るだけ早く回答する事が求められている。

閾下、閾上はモニタに刺激語ペアが呈示されている時間を、20msか1000msのいずれかにし、区別した。

20msは通常の視機能では認識できない呈示時間である事から閾下条件(自動的処理過程と想定される)、1000msでは刺激語を十分認識できる事から閾上条件(制御的処理過程と想定される)とした。

閾下条件では、残像が生じる可能性もあるので、市松模様のマスクを20ms間表示した。

また、20msが被験者にとって閾下であったかを判断するために意識チェック課題を行った。詳しい内容は省略する。

そして実験終了後に責任感評価尺度の記入を求めた。この尺度は@課題の結果に対する責任感、A不快感、B良くない事が起こそうな可能性、C自信の程度、D精神医学研究に与える影響の5項目から成り立っている。

最後に自傷他害に関する強迫観念、強迫衝動、不潔強迫、確認強迫、身支度強迫の5因子からなる強迫性を測定する尺度の記入を求めた。

【論文に示されている結果の概要、考察】

責任感評価尺度によると、責任感操作により、不快感に関してだけOCD群において意識されていた。他の項目については責任感操作は影響を与えていなかった。

一般的に不安感の強いパニック障害患者ではなくて、OCD群が健常対照群に対して、不快感だけであるが有意差を認めたことは予想外であった。

強迫症状の評価については、OCD群だけでなくパニック群にも強迫症状を認めた。

また、パニック障害は10%前後のOCD合併率があり、今回の研究ではパニック群の強迫傾向の強さがうかがえたので、今回の結果となった可能性が考えられる。しかし、パニック群に強迫症状が多様に認められた理由は明確ではない。

ドット−プローブ課題の結果、閾上条件では、責任感の高低に関わらず、3群の間に有意差は見られなかった。しかし、閾下条件の注意バイアス得点に関して多重比較を行ったところ、高責任感条件において、OCD群は健常対照群よりも脅威語に自動的処理過程で注意資源を割り当てやすいことが見られた。

パニック群については、有意な結果は出なかった。

 

その理由について考察すると、1つ目の理由は被験者が少なかった。2つ目の理由として、OCDの症状が予想以上にパニック群に認められたことである。

症状の内容に若干の違いがあるが、強迫症状の影響により、結果を引き上げてしまい、明確な結果とならなかった可能性がある。また、強迫症状の違いにより、責任感への反応が異なる可能性もあるかもしれない。今後、パニック障害と責任感の関係を研究するには、OCD症状を持つ症例を選り分けるなどの対応が必要であろう。

【この論文に対する考察、考え】

すごく良く考えられた研究だと思うが、何点か不明な点があった。

まず、実験方法についてだが、ドット−プローブ課題で中立語と中立語のペアをフィラーとして用いるのならば、脅威語と脅威語のペアも作成するべきではないかと考えた。

また結果に対する考察についてだが、パニック群に明確な結果が出なかった事について、被験者が少なかったとあるが、OCD群も同じ数の被験者で明確な結果が出ているので、被験者の数ではなく、実験方法に問題があったのではないかと考える。

もう1つ、OCDの症状が予想以上にパニック群に認められたからとあるが、これもOCDとパニック障害の関連性、相違点なとが明確にならないと断定はできないと思う。

よって、より明確な結果を得るためには、まずOCDとパニック障害の関係を明かにし、場合によっては実験方法を見なおし、被験者の数を増やして再度実験を行う事が大切であると考えた。

 

 

論文A

ストレスから精神疾患に迫る:海馬神経新生と精神機能

神庭重信

【要約】

あらゆる疾患の原因は、遺伝子と環境とで説明できる。精神疾患は遺伝子の影響と環境の寄与がほぼ同程度であると考えられている。

精神疾患の原因を“遺伝と環境”あるいは“脆弱性と誘因”という視座から見て、これまでの研究を整理する。まず、遺伝と環境について述べる。

疾患の成り立ちに遺伝と環境がどの程度関与しているのかの目安をつけるためによく用いられるのが双生児研究法である。

この方法を用いたところ、双極性障害や統合失調症には遺伝の影響が強く及ぶことがわかった、しかし一方で、急性ストレス障害のような環境の強い疾患もある。

遺伝寄与率の高い統合失調症や双極性障害では、数多くの遺伝子(疾患関連遺伝子)が複合的に相互に作用して、しかもそれは環境の影響とも作用しながら、疾患を導くのではないか、と考えられている。

疾患関連遺伝子と環境との相互作用は、脳の発達の初期から起こる。

かつて孤児となり、極悪の養育環境で育てられたルーマニアの子供達が大勢いた。彼らは政権崩壊後に発見され、英国や北米に養子としてもらわれていった。ところが、養子にもらわれた年齢が6ヶ月以前であれば、英国の子供達と比べて遜色ない身体的発育、知的発達、愛着行動を見せたのに対し、6ヶ月を超えてルーマニアの孤児院で育った子供達は、身体的発育のみならず知的発達、愛着行動の異常が観察された。

適切な養育環境がそれも適切な時期(臨界期)に脳に与えられなければ、発達は損なわれ、またそれをレスキューすることも困難なことを意味している。

次に脆弱性と誘因について述べる。

精神疾患は、静的な要因である発症脆弱性に動的な要因である誘因が加わって発症に至ると考えることができる。

疾患により脆弱性の関与が大きいものと、誘因の関与が大きいものとがある。

遺伝子環境相関の視点を持ち込むと、脆弱性と誘因とは必ずしも完全に独立した因子ではないと言える。つまり、発症誘因も発症脆弱性が作り出すことがあるといえることになり、実際には脆弱性と誘因は、相互に浸透的な性質を持つ。

次にストレスと海馬神経新生についてだが、強度の心理的ストレスが加わると、海馬神経細胞の脱落あるいは萎縮が起こることが報告されている。

近年に至り、神経新生を見る簡便は方法が開発され、鳥類、げっ歯類、サル、ヒトなどの霊長類の成熟脳でも同様に神経新生が起こること、それが成熟神経にまで成長し、記憶の神経基盤に機能していることが明らかにされている。

実はストレスは、この神経新生にも強い抑制をもたらす。

まとめると、ストレスは脳の発生から発達、あるいは老化という、生涯に亘る時間軸の上に脆弱性(遺伝子)の相互作用をもって精神疾患の発症に関わると考えられている。また極度に強いストレスが脳に器質的な傷害を与えることが明らかになってきた。

そのターゲットとして海馬の神経新生が注目されている。うつ病の脆弱性を作り出す物質としてインターフェロンが知られている。このサイトカインが海馬神経新生を抑制し、その結果としてうつ病脆弱性が作られる可能性を示した。

【この論文に対する考察】

精神疾患は今まで環境だけが(ストレスなど)発症の要因だと思っていたので、遺伝子も関与しているのを知って驚いた。

この論文は今までに実際に起こったことを元にして書かれているので、事実だという明確な証拠がないので、実験などをして論文の正確度の向上をすればさらに良いと考えた。

また脳の神経細胞の産生は胎児期に限られ、外傷や加齢による細胞あるいは組織の損失は永久的であり、残った細胞が新たな神経連絡をかろうじて作成することで修復しているものと考えていたが、そうではない事を学ぶことができた。

精神疾患は今や身近は疾患であり、年齢層に関わらず発症するものである。

そして神経疾患の多くは未だ完治が困難であるので、神経疾患の発症につながるストレスなどの研究から精神疾患の病因解明が進むことを期待するとともに、研究により1人でも多くの神経疾患に苦しむ患者さんやその家族を助ける事ができる様になることを願う。